シェアレストランで私が“流しのカレー屋“になった理由「and CURRY(アンド カリー)」インタビュー

839

シェアレストランを経て確立した“流しのカレー屋”とは?

シェアレストランで特に人気のカレー店ですが、その中でも異色の存在と言えるのが、「and CURRY(アンド カリー)」という名で“流しのカレー屋”として全国各地でスパイスカレーをふるまっている、阿部由希奈さん。
月1回のシェアレストランからスタートし、各地のイベント会場や、特定の拠点を持たないコラボ形式でのシェアレストラン活動を経て、自身のカレーづくりの研究所としての“キッチン”を構えるまでのお話を伺いました。

スパイスカレーの魅力は「自由」であること

-ご自身でカレーをつくるようになったきっかけは何ですか?
私は元々料理が得意だった訳ではなく、お味噌汁のお出汁をとるのにも苦戦するような初心者でした。ただ、美味しいものを食べることは大好きで、色々なものを食べ歩いていたのですが、ふと気が付くと週に3回位はカレーを食べに行っていたんです。
主にオシャレなスパイスカレー店を開拓していたので、この情報をもっと広めたいなと思い、女子会にも使えるスパイスカレー店を紹介するFacebookを立ち上げました。その場で「自分でもつくってみました!」と、スパイスやカレー粉を使ったカレーづくりのレシピを紹介しているうちに、自然とカレーづくりの研究を始めていたという感じです。
―スパイスカレーづくりは順調にすすみましたか?
そうですね、当時はスパイスカレーについての基本の本を読んで自分なりに勉強したのですが、スパイスの組み合わせで全く違う味になったり、スパイスが食材を引き立たせるという事もわかってきて、その奥深さにどんどんハマっていきました。
「カレーにはスパイスを20種類以上使ったほうがいい」なんて耳にする事もありますが、そんなに多くのスパイスを使う必要はなくて、実際はとても簡単なんです。際立たせたいものやベースのスパイスを決めたら、そこから基本のルールやマイルールに則って足したり引いたりしながら創り上げることができるスパイスカレーは、とにかく自由。何事も自由にやりたい私の性格にも合っていたのかもしれません。

すべてを解決してくれた、スパイスカレーというコンテンツ

―カレーづくりを職業にしようと思われたのは何故ですか?
私は企業の採用、人事の職に携わってきたのですが、「各人が、自分が心からやりたいと思える仕事ができるようになるにはどうすればいいか?」という点を考えながら仕事をしていました。でもそれは漠然とした夢のようなもので現実感が湧きにくく、自分自身の働き方についても、本当にこれでいいのかなという疑問が出てきて。そんな風に思い悩んでいた時に出会ったのがカレーでした。
知人の飲食店のオーナーに声をかけて頂いて、その方がお店を使っていない時にお店をお借りし、月1回のペースでレストランシェアの形でカレー店を始めたのですが、不思議なことに、悩んでいた働き方の問題点をカレーがすべて解決してくれるような感覚があったんです。
水野仁輔さん(※カレーのレシピ集やカレー店ガイドなどを多数出版)もおっしゃっていることですが、カレーというのは単純に、食事メニューにとどまらない、ひとつの「コンテンツ」だと思うんです。カレーを通じて人が集まったり、コミュニケーションが生まれたりするのを実感しますし、カレーで食育や、地域活性や私が思い悩んでいた働き方についてまで考えることができます。カレーをつくって、食べていただいて、そこから何かが生まれていく。それこそが、自分のやりたかった事だったと気がついた瞬間だったのかもしれません。
―それがお店の名前の由来にも繋がっているのでしょうか?
はい、先程の「カレー=コンテンツ」という意味合いと同じなのですが、カレーは何にでもかけあわせられる、と考えて「and CURRY(アンド カリー)」とつけました。例えば、鹿児島とカレー、いちごとカレー、コミュニティとカレー、働き方とカレー、というように何にでも合わせることができるシンプルな言葉を選びました。

拠点なし!“流しのカレー屋”になった理由

―現在の“流しのカレー屋”となるまでにはどういった経緯があったのでしょうか?
月1回から始めたレストランシェアでしたが、その後下北沢の「カレーの惑星」さんで、期間限定で週に3回、レストランシェアをすることになりました。ある時、わたしの担当の日曜日に、お花見のシーズンでお店に来客が少ない日があったんです。きっと近くのお花見スポットには人が大勢居るんだろうなと思ったら、直接その場所に出向いてカレーをふるまいたいなとウズウズしてしまったんですよね。とにかくじっとしていられない性格で・・・。
それに、いつも同じメニューを提供するよりも、その場所やその時の感覚でテーマを決めて、メニューを提供したいという思いもありました。それで、特定の拠点は持たないという大きな方針を決めました。そういう自分の希望がはっきりわかったという点では、お店で働いた経験は糧になっています。いつも決まった場所であのメニューが食べられる!という喜びを提供してくださるお店を構えている方々には頭が下がりますし、本当に尊敬しています。

シェアレストランを経験してわかったこと

―月1回から始められたシェアレストランですが、実際に運営されていかがでしたか?
仕込み場所や営業時間など制限はあるものの、初期投資が必要なく、リスクがありません。その中で自由にできるところがよかったです。私は実際にレストランシェアを経験して今の“流し”という自分にあったスタイルをみつけることができましたし、特定の拠点とメニューはもたず、各地でコラボしようという具体的な方向性が決まりました。これから開業しようとされる場合も、まずはレストランシェアから検討されるとよいのではと思います。
―現在も各地でコラボという形でシェアレストランをされていますが、気を付けていることはありますか?
オーナーさんに失礼のないよう、原状復帰に特に気を配っています。私は最初に調理器具の配置などを写真で記録しておいて、お返しする際には借りる前よりキレイな状態にするよう心がけています。
あとは、衛生面で何かあればオーナーさんに迷惑がかかってしまうので徹底した管理をしているつもりですが、それでも何かあったら怖いなという不安はあります。食品衛生管理者の資格を事前にとって勉強する、営業を始める前にリスクについてオーナーさんと事前に話をすれば、少し安心かなと思います。

カレーとシェアレストランの親和性

―現在、大阪などで大変盛り上がっているように、シェアレストランという形と、カレーというメニューは相性が良いのでしょうか?
そうですね、とても親和性が高いと思っています。基本的にオーブンやグリルなど、特別な装置がいらないこと、スパイスの調合はあれど基本的には複雑な手順がいらないこと、みんなが知っている食べ物だということが挙げられると思います。
カレーは玉ねぎやお肉、お米など比較的重い食材が多いので、置き場所を確保してもらえることが重要です。またオーナーさんがいるという特権を活かし、冷蔵庫のスペースをお借りしたり、発注を店舗と一緒にさせてもらうとスムーズに営業していけるのではないでしょうか。

“流し”の拠点は “キッチン”という研究所

―ごく最近ご自身の拠点といえる場所を構えられましたね。
はい、落ち着いて過ごすことができる空間で気に入っています。ただこの場所はあくまでもお店ではなく、カレーを研究する“キッチン”です。週に2日ほどキッチン開放日を設け、皆さんに召し上がって頂く機会が作れたらなと思っているのですが、毎日店舗として開けることは考えていません。
―それでは今後も“流しのカレー屋”を続けるのでしょうか?
これまで通り自分の“流し”のスタイルで続けます。全国各地のイベント会場や、レストランシェアをさせて頂くお店にフィットしたカレーをふるまったり、とにかく色々なところに出向いて新しいカレーをつくって行きたいです。流しのスタイルだからこそできる、自由な発想のカレーをこれからも皆さんに召し上がっていただきたいです。
―最後に、これからシェアレストランを検討されている方にメッセージをお願いします。
継続が大事だと思います。今までのお仕事は続けつつ、平行してレストランシェアで出店を検討されている方もいらっしゃると思うのですが、最初は営業する時間や頻度は少なくても、とにかく続けることが大事なことだと考えます。私自身の経験上、続けることで得られるものが沢山あったからです。
お客さんが来ないだとか、せっかくつくったカレーが余ってしまうとか、運営上の悩みや壁は必ずあるものだと思いますが、それにめげずに継続していくと応援してくださる方が増えたり、認知度が高まったり、自分の予期していなかったところから声がかかったりと、次のステップへのチャンスに巡り合えます。辛い時期があっても試行錯誤しながら諦めないで一緒に飲食業界を盛り上げていけたら嬉しいですね。